詩人・佐藤一英

佐藤一英は、萩原町出身の詩人です。同郷に詩人がいたことを知らないという声が多いかもしれません。萩原にある「萬葉公園」と「樫の木文化資料館」の生みの親でもあります。毎年「萬葉公園」では、河津桜や花しょうぶが楽しめています。一英は校歌の作詞にも取り組んでいて、最も身近に感じる功績ではないでしょうか。

文学に打ち込んだ人生で、若い頃から才能を発揮

20140626佐藤一英
写真提供:佐藤一英のご子息様
一英は1899年(明治32年)に中島郡祖父江町で生まれて、萩原町高松で育ちました。13歳の時、弁論大会に最年少で出場して優等賞を受賞。15歳の時には、当時としても珍しく母校(萩原尋常高等小学校)の先生になっています。先生を辞めた後、愛知県第一師範学校(愛知教育大学)に入学。感性で動く青年だったのか、御園座で観劇するために学校を脱走して、それが見つかって退学処分を受けています。早稲田大学英文科へ進学した頃、エドガー・アラン・ポーの詩を好きになりました。ポーが書いた英語の詩を夢中になって翻訳しながら、詩人になる決意をしたのです。若い頃から、才能を発揮して、文学に興味を持っていたとわかります。

一英は子供たちとの触れ合いを大切にしながら、詩集『晴天』や同人誌『青騎士』などを発行して、晩年には長詩『一粒の砂』を書いています。1939年(昭和14年)に『空海頌』で第一回詩人懇話会賞を受賞。人生を終えるまで、詩を書き続けていました。


校歌の作詞に取り組み、ふる里を愛する

一英のふる里への愛着と情熱が最もよく表れているのが校歌の作詞です。終戦後の当時、校歌のない学校が多くありました。帰郷していた一英に、校歌の作詞の依頼があったことは、ふる里の詩人に対する高い期待が伺えます。

一宮市内の小学校では萩原・浅井北・朝日東・朝日西、中学校では萩原・南部・葉栗・尾西第一・木曽川があげられます。高校なら一宮商業・木曽川の校歌を残しています。さらに萬葉保育園・萩原保育園・金剛幼稚園の園歌や、大学の校歌に、市歌(旧尾西市)や社歌など、数多くの作詞に携わっているのです。校歌で一英の言葉使いを知ってから、韻律が美しい一英の詩を読んでみるのも良さそうです。

また、『佐藤一英「歌曲集」(ふる里のうた)』には、作詞した全ての歌と、自筆の下書きノートや記念写真と、それに当時の新聞の切り抜きや詳しい略歴も載っています。

本物の詩の追求と新たな才能の発掘

一英は本物の詩とは何かを追求して、その詩学を確立するためにいつも努力していました。自由にふるまえる詩人として、書きたい詩だけを残しているのです。文芸春秋を創刊した作家の菊池寛から小説の執筆をすすめられますが拒否している事実からも、その理由がわかります。

一英の長詩『大和し美し』に、版画家の棟方志功が感動したことは、語り継がれています。文字を版画にするという志功のオリジナルな表現が、一英の詩と巡り会って出来上がったのです。また、一英は編集をつとめた童話誌『児童文学』に、文通で縁のあった宮沢賢治の長編童話『北守将軍と三人兄弟の医者』や『グスコーブドリの伝記』(2012年7月に映画化)を掲載。これが、昭和初期の名作を後世に残すきっかけとなったのです。

一英は新しい優秀な人材の発掘にも努めていました。新たな才能を見いだす勇気と見識は、いつの時代でも必要とされているのです。また、終戦後に帰郷した一英は、焼け野原に立つイチイガシに古木の生命力を感じて、日本人の生活や文化、思想の元は樫の木にあるという独自の樫の木文化論を提唱しています。

生誕百周年を経て、さらに注目されます

地方文化の発展に活躍したことにより、一英は1979年(昭和54年)に民間人として最初の市政功労者となり、一宮市より表彰されています。地方文化が育つ土壌や気運が、一宮市にもあることが一英によって証明されています。

1999年(平成11年)の生誕百周年の際、記念の絵入り葉書とふるさと切手が作られて、さらに一宮市博物館に顕彰碑(記念碑)が建立されました。一英の詩が認められて、その人物像が注目される状況になりました。声を出して歌ったり読んだりしながら、一英の言葉をひとつひとつ理解していくのが面白そうです。(text in 2013.4.11)

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